willy 物語 第四話 普通に犯罪
○月✕日
今日はリサ姫花婿大作戦1次審査の合格発表日。
履歴書による書類審査を通過した者には、合格の通達と2次審査への案内がメールで届く。
そして__________
「届いてるうううう!!!!!!!!」
遂に僕はやったんだ!
リサ姫の花婿となる為の第一歩を踏み出すことが出来たんだ!
「やったあああああああああああああああああああああ」
「ウィリー!静かにしてよ!」
フフフフフ、姉に怒られたが笑いが止まらない。
なんてったって僕はリサ姫の花婿候補に選ばれたんだ。
まぁ、当然の結果だけど。
しかし何故今となって書類審査を通過出来たのか否、何故一般人にも関わらず花婿に立候補出来る権限を得られたのか。
それは誰もが想像出来うる単純な方法で、だからこそ盲点ともなる。
つまり、僕は履歴書で少々ミステイクをしてしまっただけ。
身分の欄に誤って王族と書いてしまっただけなのだ。
元々僕の履歴書は練りに練られた完璧なものだった。それに加えて身分は王族。
ハッハッハー!落ちるわけが無い!
しかし、僕は慎重派。
勝率を上げるために内部の人間と取引をしたのだ。
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それがこのコリンである。
「僕と取引………ですか…。」
「うん。」
「出来ませんね。今警備の人間を呼ぶのでじっとしていて下さい。」
「待って待って待って待って!」
「私は貴方の事をタダの馬鹿だと思っていたのですが、どうやら違ったようですね。貴方はまさに鳥頭。王に属する人間に悪知恵を使おうなんてほんとに、消えて下さい。」
「コリンは本当に口が達者だね。」
「馴れ馴れしく名前を呼ばないで頂けますか?」
「ああ、小生意気で腹立つけど居なくなったら居なくなったで寂しくなるな……」
「出会って数日ですが、そこまで想い入れを持っていただけているなんて、消えて下さい。」
「コリン、君はユリ王子の毒味役なんだってね?」
「………………それが何か。」
「怖くないかい?」
「ハッ、何がです?」
「死だよ。」
「…」
「だって言ってみれば死刑囚の様なものじゃないか。いつ死ぬかも分からない。30年後かもしれないが、明日かもしれない。」
「僕はこの仕事に誇りを持っています。」
「そう?それならこれは要らないか。解毒剤。」
「くだらないですね。解毒剤で何とかなるものなら」
「これは、そこら辺の半端な薬じゃない。これは“向日葵の種”だ。」
コリンの目に動揺の光が走る。
それもそのはず。
“昔々、無病息災の神が玉貌の少女として地に降り立ち飢餓や疫病からアスメリアの民を救った”時に使われたのがこの“向日葵の種”なのだ。
加えてアスメリアでは向日葵という花自体が咲かない。
従って、アスメリアの民にとって向日葵の種とはまさに伝説の代物なのだ。
ま、向日葵の種に解毒効果があるとは思えないけど。
「な、何故貴方がそんなものを…」
「僕は君の言う通り王族でも貴族でもない。でも!僕の家は代々華族なんだ!(お花屋さん)」
「華族!?…聞いた事があります。でも確かそれは東洋の」
「僕は君のような未来ある若者を救いたいだけなんだ。」
「白々しい……。で、取引内容とはなんです?」
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こうして僕の身分を知る者を潰すと同時に、内部での協力者を得ることが出来た。
晴れて僕は花婿候補となったのだ。
やれやれ、時間は掛かったが着実にリサ姫へと近づいている。
「次は2次審査か……ん!え!!!!」
2次審査の案内メールは簡潔なものだった。
件名:リサ姫花婿大作戦 2次審査のご案内
本文
富と権力を示す事。
以上。
嘘だろ。
willy 物語 第三話 身分相応
「えぇと、ウィリーさん?お前は一般人だから無理。」
僕はウィリー!
僕は今、城にいる!!
正確には門の前だけど!!!
リサ姫の花婿に立候補する為に履歴書を作ったものの、送り宛が分からなかった為、直接城へ持ってきたのだ。
しかし今、丁度一般人だからという理由で受け取りを拒否されてしまった。
なんというか、まさに門前払いってやつを食らってしまったようだ。
「…一般公募じゃないの?」
「あはは!そんな訳ないじゃないですか。」
青筋立てて振り向くと、そこには恐らく王家に仕えているであろう家来のような青年がいた。
「お、怒らないで下さい。でもそりゃそうですよ。」
青年は続ける。
「流石に貴方もご存知でしょうが、アスメリアの王族は元来、血族結婚を行ってきました。しかし近年、その事が原因で王家の血を引く者は身体が弱く短命である事が多くなってしまったのです。聞いてます?」
「つまり?」
「つまりですね。王家が途絶える事を危惧した国王が、遂に血縁の無い者(身分は王族や貴族に限る)との婚約を認めたのです。」
「じゃあ僕でもいいじゃん。」
「え?」
青年は何処かへ行ってしまった。
その後、花婿募集のHPには花婿となる者は王族や貴族に限るという注意書きが足された。しかし僕はめげずに来る日も来る日も履歴書を渡しに行った。全て門前払いされた上に出禁を食らってしまったが僕は諦めない。
「くそぅ………」
うーーーん、何故駄目なのだろうか。
「だから!!!権限が無いって言ってるじゃないですか!!!!!!貴方何回来るんですか!!」
そこには前に出会った様な気がするモブキャラがいた。
「僕の名前はコリンです。以前貴方に注意した家来の青年です!!!」
「あー……あ!」
「協力しませんよ。」
「あーーーーーーーーーー」
「はぁ…いい加減諦めて下さい。貴方は王族でも貴族でもないんですから。」
「そっか。僕が王族や貴族なら良かったのか。」
「そうですね。立候補くらいは出来たでしょうね。でも現実は違います。さぁもう帰って下さい。」
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「あ、おかえりなさい。ウィリー。」
「ただいま母さん。」
さてと………一仕事するか。
willy 物語 第二話 小鳥の記憶
数年前。
ウィリーが森の中で道に迷ってしまった時の出来事だ。
やっとの思いで開けた丘に出たウィリーは、遠くの方で木の根に腰掛けた少女が居るのが見えた。
道を尋ねようと少女に近づくウィリー。
「すみません……少し、お聴きしたいことがあって。」
少女は黙ったままウィリーをジッと見据えると、少し経ってからウィリーの手にあった包みを奪ってしまった。
すると其の瞬間____
包みの中から小鳥が顔を上げ、そして大空へ飛び立って行ったのだ。
まさに魔法のようだった。あの小鳥自身また大空を飛べるなんて思いもしなかっただろう。何故ならあの小鳥は少女に触れられるまで瀕死でだったのだ。ウィリーが道中で発見し保護したものの、回復せずに半ば諦めていたところだった。まさに奇跡だ。
「リサ姫様ーーー!」
何処からか兵隊の格好をした男が現れ、ウィリーは直ぐに拘束された。
どうやら迷っている内に山を超え、王家の敷地内に入ってしまったようだ。
その後開放されたものの、こっ酷く絞られてしまったウィリーは二度と王家の敷地に近づく事は無かった。
しかしこの出来事があってからというもの、ウィリーの心には常にあの少女が居る。リサ姫が、居るのだ。
そして月日が経ち、ウィリーは今日20歳を迎えた。
アスメリア王国では身分に関わらず、20歳になった者は成人と見なされる。
ウィリーはまだ大学生だが、もう立派な大人なのだ。
そして、成人1日目。とは言え特に何も変わらない日常____のはずだった。
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「なんだろう…目覚め悪いなあ。」
何か大きい音で目覚めた僕は、何故か冷や汗をかいていた。
「ウィリー…!お母さんが!!!」
1階から姉の声がしている。
今日は僕の20歳の誕生日。
きっとサプライズに違いない。
同日
〝リサ姫の花婿を一般公募する!!!〟
アスメリアにはビッグニュースが流れていた。
そして。
「決めた。僕は花婿になる!」
「待ちなさい!大学はどうするの?」
姉が止めるのも無理はない。
「休学するよ。」
「何考えてんの?」
けれど、
「僕はリサ姫の花婿になるんだ!!」
第一話
第三話
willy 物語 第一話 伝説と噂
「決めた。僕は花婿になる!」
「待ちなさい!大学はどうするの?」
こうしてウィリーは旅に出た。
これはまだウィリーが幼い時のお話。
“昔々、無病息災の神が玉貌の少女として地に降り立ち飢餓や疫病からアスメリアの民を救った”
これは、ウィリーが住むこのアスメリア王国に伝わる古い伝説で、人を励ましたり鼓舞したりする時によく話される。
中には、こんなものただの伝説に過ぎないと小馬鹿にしていた者も居たのだが、とある噂によって考えを一変させる事となる。
“リサ姫がユリ王子の怪我を治した”
詳しくは、リサ姫が手をかざしただけでユリ王子の怪我を直してしまったというものだった。
リサ姫というのは現国王の娘で、ユリ王子はその弟。当時まだ幼かったという事もあり二人ともまさに妖精のような美しさで、国民からも愛されていた。
そんな2人の噂は瞬く間に広まった。
大木から落ちたユリ王子は相当な大怪我を負っていたらしく、一瞬で治るような怪我では無かったようだ。
そして驚いた事にリサ姫はユリ王子だけでなく、近くにいた者たちの古傷や生まれつきの病気まで一緒に治してしまったというのだ。
“無病息災の神が玉貌の少女として地に降り立ち飢餓や疫病からアスメリアの民を救った”
この少女が実在するかもしれない。
ウィリーを含めアスメリアの国民はリサ姫から慈悲を受けることを浮足立って待っていた。
しかし一向にその時が来ることは無かった。
そして数年後、王妃が亡くなる。
この訃報によりリサ姫の力は全くのデマであったとされ、当のリサ姫は離れの塔に閉じこもる様になってしまった。
現在でもリサ姫は公の場に姿を表す事は無く、代わってユリ王子が公務をこなしている状態だ。
勿論、リサ姫の噂を今も信じている民なんていない。
でも、私とウィリーは見たんだ。
第二話